大人の自由研究

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ニューヨークでブロードウェイミュージカルを14本観てきたのでその感想を書くよ

2019/03/27:現在の公演情報などを追加しました。

ニューヨークと言えばブロードウェイ、ブロードウェイと言えばミュージカルである。

2017年の3月から4月にかけてニューヨークに滞在していたとき、僕はここぞとばかりにブロードウェイミュージカルを観てきた。その数14本である。

ここではその感想をまとめて書いておこうと思う。ニューヨークにブロードウェイミュージカルを観に行こうという人の参考になると思う。

ちなみに僕は演劇をやっている人間でもあるので、見方はかなりシビアだと思う。しかしそれでも素晴らしいものが多かったので、ブロードウェイミュージカルのレベルは本当にハンパないと思う。

目次

The Fantasticks ★★★★★ 【終了】

The Fantasticks

2019/03/27追記:この作品は既に終了してしまった。「ブロードウェイで最もロングランしている作品」という触れ込みだったし、内容も良かっただけに残念である。)

ニューヨークに行った当初はそれほど「ブロードウェイミュージカルを観るぞ」という気持ちはなかったのだけど、「まぁせっかくニューヨークにいるんだから、ブロードウェイミュージカルも観ておくか」と軽い気持ちで行ったオフ・ブロードウェイ(ブロードウェイの2軍みたいな感じ)のミュージカルがThe Fantasticksである。

内容は比較的素朴なボーイ・ミーツ・ガール(恋愛もの)だが、これがとっても面白かった。オフ・ブロードウェイだからそれほど広くない劇場(役者が足踏みすると客席全体が揺れるような劇場)だったのだけど、目の前で繰り広げられるパフォーマンスのクオリティーはめちゃくちゃ高くて、不思議な気分になるほどだった。

特に役者がみんなチャーミングだったのが印象に残っている。また、役者がチャーミングに見えるような演出もされていて、それがとても素敵なミュージカルだった(そして僕の好みでもあった)。

ブロードウェイのレベルの高さを感じた1日であり、このあと怒涛の観劇に続くきっかけとなる日であった。

スクール・オブ・ロック ★★★★

スクール・オブ・ロック

The Fantasticksはオフ・ブロードウェイだったので、ブロードウェイ作品としては一番最初に観た作品である。なんとなく名前は知っていたし、僕はアニーが好きなので、子供が活躍するスクール・オブ・ロックも好きだろうと思って観に行った。

テンポのよい、すごくよくできたミュージカルだった。特に欠点が見つからないくらい完成度が高かったが、一方でスキが無いのが欠点だとも思った。悪く言えばちょっと教科書的。

でも最終的には子供たちが一生懸命やっている姿に感動した。それからキャストは子供も含めて全員うまくてパワフルで、本当にレベルの高い世界なのだと改めて感じた。

スクール・オブ・ロックは老若男女楽しめるミュージカルなので、誰にでもおすすめしやすい。チケットも取りやすくなっているので、手軽に観に行けるだろう。

キンキーブーツ ★★★★

キンキーブーツ

キンキーブーツはドラァグクイーン向けのブーツを作る靴職人の話である。ブロードウェイのキャストが来日したときに日本でも観たが、改めてブロードウェイでも観てきた。

日本で観たときも思ったが、とてもいいミュージカルだと思う。ストーリーも歌(シンディー・ローパーが作っていて、かなりいい)もダンスも全てよくできていて、満足できる作品だった。ただちょっと教科書的で、ここらへんはスクール・オブ・ロックと似ているかもしれない。

キンキーブーツはニューヨークでのルームメイトと観てきたが、彼女もとても感動していた。「ここ最近観たものの中で一番感動したかも」と言っていた(ちなみに彼女はニューヨークに2年くらい住んでいるけれど、ブロードウェイミュージカルは初めて観たと言っていた)。

というわけでキンキーブーツもまた誰にでもおすすめしやすい作品である。チケットも取りやすくなっているので、手軽に観に行けるだろう。

Sleep No More ★★★

Sleep No More

Sleep No Moreはかなり特殊なオフ・ブロードウェイ作品である。いわゆる劇場で観劇する作品ではなく、ビルがまるごと会場になっていて、そこを自分で歩き回って観るという体験型の作品である。そしてその時に仮面(会場でもらえる)を被って歩き回るというのも特徴である。

出演者は一切喋らず、身体のみで表現をしていた。一応『マクベス』を下敷きにしている作品ということで、事前にマクベスを読んでいったが、正直言ってよく分からなかったというのが感想である。

ダンサーの動きは美しいし、仮面を被って建物の中を動き回るという体験自体は面白かったけれど、劇としては何の場面なのかがよく分からなかった。ただマクベスを観たことがある知人は「素晴らしかった!」と言っていたので、単純に僕の知識不足かもしれない。

というわけで一般の人におすすめできるかと言うとそうでもない、というのが僕の感想である。ただ試みとして新しいので、既にいろんな劇を観ている人(マクベスも観たことがある人)にとってはいいかもしれない。

946 ★★ 【終了】

946

次はブルックリンの劇場で946という作品を観てきた。一応オフ・ブロードウェイという扱いだが、実際はイギリスからツアーで来ている作品だった(なので既にニューヨークではやっていない)。簡単に言えば戦争に巻き込まれる人々の話である。

「このメンバーだからできることをやる」という感じがあって、とてもいいカンパニーだと思った。しかし一方でブロードウェイのクオリティーには届いていないと思った。同じオフ・ブロードウェイのThe Fantasticksと比べても、キャストのレベルはThe Fantasticksのほうが圧倒的に高かった(まず歌のうまさからして全然違う)。

また、演出的にもブロードウェイ作品と比べると整理されていないことが多いと思った。例えばスクール・オブ・ロックの場合は拍手をする場所が明確で、それゆえに客席が一体となって盛り上がるのだけど、946では「ここ拍手するとこだよね……?」となるところがいくつかあった。

とは言え、もしこのカンパニーが日本に来て上演をしたとしたら、普通にとてもいい上演だと思う。やっぱりブロードウェイはえげつない世界なのだと改めて思い知らされた日であった。

ちなみにこの作品をやっていたブルックリンのSt. Ann's Warehouseという劇場はめちゃくちゃおしゃれな劇場だった。劇場のお姉さんもとってもいい人で「今日のショーのチケット買えますか?」「もちろん!ラッシュチケットにするよ!ひとり?」「うん、僕だけ」「それってクール!」という感じのやりとりがあった。劇場づくりに興味のある人は一回行ってみたらいいと思う。

Avenue Q ★★★★

Avenue Q

2019/03/27追記:2019年5月末で終了らしい。とても価値のある作品だけに残念だ。)

Avenue Qはセサミストリートをブラックにしたようなコメディーミュージカルである。"The Internet Is For Porn(インターネットはエロのため)"という曲がある、と言えばだいたいの雰囲気は分かるだろう。

こういう作品は「アイデアは面白いけれどクオリティーは高くない」というのが定番だが、そこはブロードウェイ、役者も演出も脚本もものすごいクオリティーでふざけている作品だった(褒めてる)。

役者はやっぱり歌がうまいし、パペットの扱いもすごくきれいだった。脚本もただブラックなわけではなく、ちょうどよく批判的なところを攻めていると思った。特に2003年初演ということを考えるとかなり先進的で、今の日本で言う「さとり世代」的な感性があると思った。"Everyone's a Little Bit Racist"(みんな少しずつレイシスト)なんてすごくいいナンバーだと思う。

この作品は賞もいくつか取っているが、たしかに賞を与えるにふさわしいチャレンジングでいい作品だと思った。子供連れにはおすすめできないけれど、大人には普通におすすめできる作品である。

シカゴ ★★

シカゴ

ザ・ブロードウェイミュージカルということでシカゴを観てきた。シカゴはマフィアが暗躍する時代のシカゴで、有名になろうと画策する女性たちを描いた作品である。

歌・踊りともに「ザ・ミュージカル」という作品だったが、逆に言えば「ザ・ミュージカル」を超えてこないとも思った。他のブロードウェイ作品は「びっくりする」くらい良いのだけど(それは本当にすごいこと)、シカゴに関しては「想定の範囲内」という感じがした。

役者は相変わらず抜群にうまかったけれど、演出に少し古さを感じたし、もしかしたら脚本自体がもう古いのかもしれない。正直「有名になるためにそこまでするかー?」と感じてしまった。

というわけで有名ではあるが、積極的におすすめできる作品ではないと思った。

Beautiful ★★★

Beautiful

Beautifulはキャロル・キングの半生をミュージカル化したものである。モータウン時代の名曲やキャロル・キングの名曲がずらりと並ぶミュージカルであった。

僕はキャロル・キングモータウンが好きなので楽しめたけど、そうでない人がどう感じるのかは謎だと思った。演出が豪華だからそれだけで楽しめるのだろうか。

また、珍しく客席で日本人を見かけないミュージカルでもあった(まぁブロードウェイミュージカルを1・2本しか観ない観光客がBeautifulを選ぶってことはあまりないだろう)。

個人的には後半の名曲の畳み掛けに感動したけれど、これはやっぱり僕がキャロル・キング好きだからかもしれない。というわけで、積極的におすすめする作品ではない、という気がする。しかしミュージカルとして悪いわけでは全然無いので、僕のようにキャロル・キングモータウン好きは行ってみてもいいかもしれない。

CATS ★ 【終了】

CATS

2019/03/27追記:2017年末で終了していた。やっぱりか、という感じである。)

CATSは劇団四季でも有名なミュージカルである。まぁ、猫がたくさん出てくるミュージカル。

……と適当な紹介をしたのは、ストーリーが特に無いからである。CATSはミュージカルというよりも歌と踊りのショーであった。

僕はミュージカルにストーリーを求めるタイプなので、正直途中で空きてしまった。特に第一幕はキャラクターがひたすら出てきて自己紹介ソングを歌うだけなので「何を見せられているんだろう?」という気持ちになった。

ただ、キャストのレベルはこれまで見たブロードウェイミュージカルの中でもピカイチだと思った。歌とダンスがどちらもかなり高いレベルにあるか、もしくは歌がブロードウェイの中でも抜群でないとCATSのキャストにはなれないのだろうと思った。主人公(と言ってもストーリーないのでそんなに主人公感もないんだけど)と長老猫に関しては歌のうまさだけで感動するレベルだった。

しかしやっぱり作品としてはストーリーがなかったので僕は楽しめなかった。ちなみに、あまりに楽しめなかったので観劇後に思わず「CATS つまらない」とググってしまったのだけど、同じようなことを思っている人が結構いた。しかし友人の中には「CATSが一番好き」という人もいたので、歌と踊りのショーが好きな人には合うのかもしれない。というわけで個人的なおすすめ度は低いけれど、ショーが好きな人はありかもしれない。

オペラ座の怪人 ★★★

オペラ座の怪人

シカゴ、CATSに続き、ザ・ブロードウェイミュージカルである「オペラ座の怪人」を観てきた。

ロングラン作品はシカゴもCATSも微妙だったのであまり期待していなかったのだけど、これは面白かった。ストーリーにちょっと古さを感じたりもしたけれど、舞台がとにかく豪華だったしスペクタクルもあったりで楽しめた。(そして今はミニマルにやるよりもスペクタクルにやるほうが現代的に見えるのだなと思った。シカゴはミニマル寄りだったのでもろに古く感じてしまった。)

あと、バレエ的な踊りが好きな人もいけるし、オペラ的な絢爛さが好きな人にもいけるので間口が広いと思う。さすが最長ロングラン作品だと思った。

個人的なおすすめ度は普通くらいである。面白さ的には飛び抜けたものはないけれど「ブロードウェイミュージカルでオペラ座の怪人を観てきた」というのはそれだけで完結感があるので、悪くはないと思う。

PARAMOUR ★★ 【終了】

PARAMOUR

2019/03/27追記:この作品は既に終了している。まぁ仕方ないかな、というところ。)

PARAMOURはシルク・ドゥ・ソレイユがブロードウェイで始めたミュージカルである。

さすがシルク・ドゥ・ソレイユという感じで、パフォーマンスがすごすぎて本当に笑っちゃうくらいだった。またサーカス的な要素はもちろん、映像とシンクロする今どきのアレをやったり、ドローンを飛ばしてみたり、できることを全部詰め込んでみよう感が逆に潔かった。

ただストーリーは本当に陳腐なボーイ・ミーツ・ガールで、「もうちょっとどうにかならなかったのかな……」という気がした。

ミュージカル作品として成功しているかというとクオリティー的にもビジネス的にもYesとは言えないが、可能性は感じたので今後もこういう試みは続けていってほしいと思った。

ウィキッド ★★★★★

ウィキッド

これまで観てきた作品は比較的チケットが安価に取りやすい(抽選が当たる)作品であったが、帰国が近くなったため、ウィキッドとアラジンとライオンキングは通常のチケットを取ることにした。その一作目がウィキッド。オズと魔法使いのスピンオフのような作品である。

シンプルにめちゃくちゃ面白かった。終わったあとに「お……面白かった……」と動けなくなるくらいの面白さがあった。

エルファバ(ウィキッド)の親友のグリンダのキャラクターが秀逸だし、それがストーリーにも関係していて、脚本のお手本を見ているような作品だった。

今回は後半のあらすじを予習せずに(というか予習し忘れて)見ていて、「これどうやってエンディングに持っていくんだろう(オズの魔法使いとの整合性も取らないといけないし)」と思っていたけれど、その点に関しても完璧であった……。

あとグリンダを演じていた女優さんがとってもチャーミングだったし、演出もチャーミングに見えるように行われていてそれが素敵だった。グリンダは一歩間違えるとただのワガママ娘になっちゃうのだけど、このグリンダはお客さんに愛されていた(ただ後日ルームメイトが観に行ったら「あの女の子ワガママじゃない?」と言っていたので、ギリギリラインかもしれない)。

……と熱く語ってしまったが、ミュージカルにストーリー性を求める人にはとてもおすすめである。けっこうロングラン(2003年から)なのにまだチケットが売れているのも納得の作品だった。

アラジン ★★★★

アラジン

アラジンは言わずと知れたあのアラジンをブロードウェイミュージカルにしたもの。わりと最近(2014年から)の作品で、むしろ今まで無かったのか、とすら思う。

ミュージカルとしてもショーとしてもハイクオリティーで面白かった。特にショーとしての華やかさが秀逸だった。ジーニー登場シーンの楽しいこと楽しいこと。

しかし一方でストーリーに関してはあっけなく終わったという印象があった。原作があまりにも魅力的なため消化不良感があった。

大蛇と格闘するシーンはなんとかして見せてほしかったなぁ。あとA Whole New Worldのシーンは単調でもうちょっと頑張れと思った(もしくはもっとシンプルにするか)。

というわけで個人的な好みではウィキッドのほうが好きだが、ウィキッド以上に誰でも安心して観られる作品なので「ニューヨークのブロードウェイミュージカルを1本だけ観てくる」という場合にアラジンを選択するのはありだと思う。「新しい定番はこれ!」感がある。

ライオンキング ★★★★

ライオンキング

劇団四季でも有名なライオンキング。僕はかなり前に劇団四季のライオンキングを観たことがあるが、ブロードウェイでも観てきた。

劇団四季で観たときも思ったが、やっぱり他のミュージカルとは違う肌触りのある作品だと思った。「オリジナル」ということを考える作品。独創的であり原形である作品。

演出的には劇団四季とほとんど同じだったが、やはりブロードウェイ俳優のレベルは高かった。特にラフィキ役の人が凄まじかった。ラフィキは儀式をするのだけど、それがうまいを飛び越えて、本物だった。調べてみたら南アフリカ生まれでシャーマン的な文化が身近にあったらしい

個人的には好きな作品だが、ライオンキングは特殊なので、観たい人は観に行ったらいいし、スタンダードな作品を観たい人は他の作品のほうがいいと思う。

おわりに

というわけでニューヨークで観てきたブロードウェイミュージカル14本について簡単に感想を書いてきた。途中やたら専門的になったら熱くなったりしてしまったが、そこも含めて参考になればと思う。もし何かあればコメント欄までどうぞ。